福沢諭吉 学問のすすめ 現代語訳

49.学問のすすめ 現代語訳 十二編 第一〜五段落

十二編 演説を勧める説 第一段落 演説とは英語で「スピイチ(speech)」と言って、大勢の人の前で自説を語り、席上で自分の思っていることを人に伝える方法である。わが国にそういった方法が昔からあるとは聞いたことがなく、寺院での説法などがこの類に入るく…

48.学問のすすめ 現代語訳 十一編 第五〜七段落

第五段落 これまで述べたように、上下貴賤の名分を正して、ただその名のみを主張して専制の権力を行おうとすることによって、その毒が噴き出すところのものがあり、これこそ人間に流行する欺詐術策というものである。そうして、この病にかかってしまった者を…

47.学問のすすめ 現代語訳 十一編 第三・四段落

第三段落 アジア諸国では、国君のことを民の父母と言い、人民のことを臣子または赤子と言い、政府の仕事を牧民の職と言って、シナでは地方官のことを何州の牧と名付けたこともあった。この牧とは獣類を養う意味であるからには、一州の人民を牛羊のように取り…

福沢諭吉 『福翁百話』 『福翁百余話』 『瘠我慢の説』 現代語訳の紹介

いつも私の拙い文章を読んでいただき、誠にありがとうございます。間違いのご指摘や、その他ご意見を聞かせていただけると、さらにうれしいなぁと思っている今日この頃です。さて、現在、私は福沢諭吉の「学問のすすめ」を現代語訳しているのですが、これと…

46.学問のすすめ 現代語訳 十一編 第一・二段落

十一編 名分によって偽君子が生まれてくる方法 第一段落 第八編に、上下貴賤の名分から夫婦親子の間に生まれる弊害の例を示して、その害が及ぶところはこの他にもまだ多いことの次第を述べた。そもそもこの名分がどういった所から起きているのかと考えてみる…

45.学問のすすめ 現代語訳 十編 第三段落

第三段落 このようにして考えてみると、今の学者たる者は決して尋常学校の教育で満足してはならず、その志を高遠にして学術の真価に達し、不羈独立であって他人に頼ることもなく、あるいは同志の朋友がいないのならば、例え一人ででもこの日本国を維持すると…

43.学問のすすめ 現代語訳 十編 第一段落

全編の続き、中津の旧友に贈る 全編に学問の旨を二つにわけてこれを論じたが、その議論についての概要を言うと、人たるものはただ一身一家の衣食を満たして、それで自分で満足してしまってはならず、人の天性には、なおこれよりも高い約束があるからには、人…

44.学問のすすめ 現代語訳 十編 第二段落

第二段落 今の学者は何のために学問に従事しているのだろうか。不羈独立の大義を求めていると言い、自主自由の権利を回復すると言っているのではないか。既に自由独立と言うときには、その字の意味に、自ずから義務の考えが含まれていなければならない。 つ…

42.学問のすすめ 現代語訳 九編 第五〜七段落

第五段落 人類が生まれたばかりの時には人智はまだ開けていなかった。その有様を見てみると、あたかも生まれたばかりの子供に知識がないようなものだ。 たとえば麦を作ってこれを粉とするためには、天然の石と石とでこれを付き砕いていたのだろう。その後工…

41.学問のすすめ 現代語訳 九編 第四段落

第四段落 第二 人の性というものは群居することを好んで決して独立孤立することはできない。 夫婦親子だけでは、この性情を満足させることはできない。必ず、広く他人に交わって、その交わりがいよいよ広ければ広いほど一身の幸福感も増されるのであって、す…

40.学問のすすめ 現代語訳 九編 第一〜三段落

九編 学問の旨を二様に記して中津の旧友に贈る文 人の身心の働きを細やかに見れば、これを分けて二つに区別することができる。第一は、人一人たる身についての働きである。第二は、人間交際の仲間に居てその交際の身についての働きである。 第一段落 第一 身…

39.学問のすすめ 現代語訳 八編 第七・八段落

第七段落 親に孝行することはそもそも人たる者の当然のことで、老人ならば他人でもこれに丁寧に接するはずである。ましてや、自分の父母に情を尽さないということがあろうか。利のためでもなく、名のためでもなく、ただ自分の親だと思って、天然の心で孝行を…

38.学問のすすめ 現代語訳 八編 第六段落

第六段落 今のは姦夫淫夫の話であるけれども、またここに妾の議論もある。世の中に生まれる男女の数はほぼ同じであるという道理である。西洋人の実験によると、男子の生まれる割合は女子の生まれる割合より多く、男子二十二人に対して女子二十人であるという…

37.学問のすすめ 現代語訳 八編 第五段落

第五段落 政府が強大で小民を制圧するという議論は、前篇までで触れてきたことなのでここではこれを略し、人間男女の間についてこの(儒学的思想の)ことについて言おう。 そもそも世の中に生まれたからには、男も人であり女も人である。この世の中に必要不…

36.学問のすすめ 現代語訳 八編 第三・四段落

第三段落 このような次第で、人たる者は他人の権利を妨げなければ、自由自在に自分の身体を用いることに正しい理があるわけである。好きなところに行き、そうしたいと思うところに止まり、あるいは働き、あるいは遊び、あるいは事を行い、あるいはかの業をし…

35.学問のすすめ 現代語訳 八編 第一・二段落

我心をもって他人の身を制すべからず 第一段落 アメリカのウェイランドという人の著した「モラルサイヤンス(moral science)」という本には、人の身心の自由を論じたところがある。その論の大まかな意味はこのようなものである。 人の一身は、他人とは離れて…

34.学問のすすめ 現代語訳 第十段落

第十段落 このように世を憂えて身を苦しめ命を落とす者を、西洋の言葉で「マルチルドム(martyrdom:殉教者)」と言う。この第三策で失うのはただ一人の身であるのだけど、その効能は、千万人を殺し千万両を費やすような内乱の戦よりも、はるかに優れている。 …

33.学問のすすめ 現代語訳 七編 第六〜九段落

第六段落 今まで述べたように、人民も政府も互いにおのおのその分限を尽しているときは申し分のないことだけど、時には政府がその分限を越えて暴政の行われるときがある。そういった場合に人民の分として為すべきことは、ただ三カ条があるのみである。すなわ…

32.学問のすすめ 現代語訳 七編 第五段落

第五段落 人民は、既に一国の家元であって国を護るための経費を払うことがそもそもの職分であるからには、この経費を払うのに決して不平の顔色を出してはならない。国を護るためには役人の給料を払わなければならないし、海軍陸軍の軍費もなしというわけには…

31.学問のすすめ 現代語訳 七編 第三・四段落

第三段落 第二 主人の身分で論ずれば一国の人民は政府でもある。 それが何故かというと、一国中の人民が全員政治をするわけではないのだから、政府というものを作ってこれに国政を任せ、人民の代表として事務を取り扱わせるという約束を定めているからである…

30.学問のすすめ 現代語訳 七編 第一・二段落

七編 国民の職分を論ず 第六編に国法の貴いことを論じて、国民たるものは一人で二人分の役目を勤めるものだと言った。今またこの役目職分のことについて、これからさらに詳しく述べて六編の補てんとする。 第一段落 おおよそ国民たるものは、一人の身で二つ…

29.学問のすすめ 現代語訳 六編 第八・九段落

第八段落 国法が貴いことを知らない者は、ただ政府の役人を恐れ、役人の前では態度を良くして、表向きに犯罪の名がないのなら裏では罪を犯していてもこれを恥だと思わないばかりか、巧みに法を破って罪を逃れる人がいるとかえってこれをその人の働きだとして…

28.学問のすすめ 現代語訳 六編 第六・七段落

第六段落 昔は、日本で百姓町人といったやからが、士族に対して無礼を加えた場合の切り捨て御免という法があった。これは、政府が公に私裁を許したものである。なんとけしからんことであろうか。全て一国の法は唯一政府によって施行するべきものであって、そ…

27.学問のすすめ 六編 第五段落

第五段落 昔徳川の時代に、浅野家の家来が、主人の仇打ちだといって吉良上野介を殺したことがった。世ではこの事件を忠臣蔵、また、この仇打ちをした人たちを赤穂の義士と呼んでいる。この一件はなんと間違ったことだろうか。 というのも、この時日本の政府…

26.学問のすすめ 現代語訳 六編 第三・四段落

第三段落 たとえば、我が家に強盗がきて家の中の者をおどし金を奪おうとしたとする。このとき、家の主人たる者の職分は、この事の次第を政府に訴えて政府の処置を待っているのが本当であるのだけど、事が火急でありそれを待っている時間もなく、かれこれとす…

25.学問のすすめ 現代語訳 六編 第一・二段落

六編 第一段落 国法の貴きを論ず 政府は国民の代表で、国民の思うところに従って事をなすものである。その職分(務め)は罪のある者を取り押さえて、罪のない者を保護することに他ならない。これがすなわち国民の思っていることで、これさえしっかりと行われ…

24.学問のすすめ 現代語訳 五編 第八・九段落

第八段落 今まで論じたことによって考えてみると、国の文明は上政府から起こるものではないし、かと言って下人民から生ずるものでもない。必ずその中間から興って皆の向かうべきところを示し、政府と並び立ってから、そうして始めて成功を期することができる…

23.学問のすすめ 現代語訳 五編 第七段落

第七段落 そもそも我が国の人民に気力が無いことの原因を考えてみると、数千百年の昔から、政府が全国の権柄を一手に握って、武備文学から工業商売に至るまで、また、社会の細かい事務までも、政府の関わらないものはなく、人民はただ政府がこうせよというと…

22.学問のすすめ 現代語訳 五編 第一〜六段落

五編 第一段落 学問のすすめは、もとは民間の読本か、義務教育の教科書として書いたものであるから、初編から二編三編はなるべく一般的な話し言葉を使って文章を読みやすくすること第一としていたのだけど、四編では少し文体を改めて難しい言葉を用いたとこ…

20.学問のすすめ 現代語訳 四編 第七段落

第七段落 今まで述べたようなことが本当の事ならば、我が国の文明を進めてその独立を維持するためには、政府のみによってそれができるというわけでもなく、また今の洋学者流だけに頼っているだけでは足らず、必ず私自身に任ぜられるものであって、まず私が事…