41.学問のすすめ 現代語訳 九編 第四段落

第四段落

 第二 人の性というものは群居することを好んで決して独立孤立することはできない。

 夫婦親子だけでは、この性情を満足させることはできない。必ず、広く他人に交わって、その交わりがいよいよ広ければ広いほど一身の幸福感も増されるのであって、すなわちこれが人間交際の起こる理由である。

 既に世間のうちに居て、その交際の中にいる一人であるならば、当然に義務がないというわけにはいかない。おおよそ世に学問といい工業といい政治といい法律といっても、これらは人間交際のためにするものであって、人間の交際がないのならばどれも不用のものである。

 政府はどういった理由で法律を設けるのか、悪人を防いで善人を保護して、これらによって、人間の交際を全くしようとするためである。学者は何のために本を書いて人を教育するのか、後進の知見を導いて人間交際を保とうとするためである。

 むかし、あるシナ人の言葉に、天下を治めること肉を分けるように公平にしようとあり、また、庭の草を除くよりも天下を掃除しようというものがあるのだけど、これらは皆人間交際に利益があるようにという志を述べたものであって、そもそもどんな人であってもいささかの所得があるならば、これによって世のためにと思うのは人情の常である。または、自分には世のためにするという思いがない場合でも、知らず知らずに計らずして後世の子孫がその功徳を蒙ることがある。人にこの性情があるからこそ人間交際の義務を達することができる。古くから世にそのような人物がいなかったとしたら、私は今日に生まれて今の世界中にある文明の恩沢を蒙ることはできなかったであろう。

 親から引き継いだものは遺物と言われるけれども、この遺物はわずかに地面と家財などだけであって、これを失ったら失った跡すら無くなってしまう。だけれども、世の中の文明はこういったものではない。世界中の古人を一人に見なして、この一人の古人から今の世界中の人である私に譲渡された遺物であるからには、その広大であることは地面家財に比することはできない。

 されども今、誰に向かって、現に受けているこの恩を感謝すべきなのだろう、おの相手がいない。これを例えると、人生に必要である日光や空気を得るのに銭がいらないことのようである。これらは貴いものではあるのだけど、それの持ち主が分からないのであれば、それは全てただ古人の陰徳恩賜と言うべきのみだ。


まとめ
http://d.hatena.ne.jp/keigossa/20121007/1349584536


感想及び考察

■ここには、そのまま人間交際と記しておいたけど、これは別の言葉を使うのならば社会と言えるだろう。人間は社会的動物などと言われる。福沢は、人間交際が好きだったのだろう。「人間が社会を形造ることは人間の自然な感情だ」と言っている。だが、私の好みの言い方をすると、「人間は一人で生きることができないから社会を形成するのだ」ということになる。どちらも同じことを言っているのだけど、言い方が違う。だが、どちらの言い方も正しい。