32.学問のすすめ 現代語訳 七編 第五段落

第五段落

 人民は、既に一国の家元であって国を護るための経費を払うことがそもそもの職分であるからには、この経費を払うのに決して不平の顔色を出してはならない。国を護るためには役人の給料を払わなければならないし、海軍陸軍の軍費もなしというわけにはいかない、裁判所の経費もあり、これらの経費の総額はとても大金のように思われるのだけど、一人当たりでこの経費を割ってみるとどの程度のものだろう。

 日本での歳入の総額を全国の人口で割ってみると、一人当たり、一円か二円といったところである。一年の間に、わずか一円か二円を払って、政府からの保護を受け、夜に強盗や押し入りの心配もなく、一人旅に出ても山賊の恐れも無くて、安心してこの世を渡れることは大いなる便利ではなかろうか。世の中には、割のいい買い物があると言っても、税金を払うだけで政府の保護を買うほどに安い買い物はないであろう。

 世の中の有様を見ていると、建物に金を費やす者もいれば、美服美食に力を尽くす者もあり、甚だしい者では女と酒に銭を捨てて一生を不意にする者もいる。こういったことに使う経費と税金の値段とを考えてみると、同じ日に語ることもできないほどかけ離れた話である。払うべき金でないのならば一銭でも惜しんだ方が良いのだが、道理によって払わなければならないばかりでなく、これを出して安い買い物ができるのであるから、考えるまでもなく快く税金を払うべきである。


まとめ
http://d.hatena.ne.jp/keigossa/20121007/1349584536

感想及び考察

■福沢の理論は非常に正しいなと思う。時に、税金が高いなどといって、これに不平を述べるばかりか、手練手管で税金を合法的に少なく払おうとする者もいれば、甚だしい者に至っては書類や事実を改ざんし、世に言う「脱税」を行っている者もいる。これらの人や企業は了見違いも甚だしい。確かに、海外へ出るときの保護の薄さはあるだろうけど、累進課税で40%ほどの税金を払う高所得者や、日本で商売をして儲けている企業が、それだけ儲けることができるのは、日本の治安などが良いことの恩恵を受けているからである。また、その税金によって、低所得者にもお金が回ることで、それだけの儲けが出るのである。もしも仮に、法人税所得税が高いとして、その税額を半分に減らし、政府の活動を半分にしてみよ。瞬く間に、儲けは半分以下になるだろう。確かに公務員の給料が多いことは腹立たしいことである。しかし、そういったことに思いを馳せず、感謝の気持ちを忘れて不平不満ばかり言っているのであれば、それこそ何も知らない愚か者なのであって、そのような想像力のない人の事業が長続きしないことは目に見えている。謹んで良く考えなければならない。