イデア論と性善説と子供

読み書きできないエチオピアの子供たちにAndroidタブレットを与えたら...彼らは5ヶ月でハックした
http://www.gizmodo.jp/2012/11/android5_1.html

 とても面白く興味深い事例と思う。

 これと少し本質は似ているが、内容の全く逆の話が、エジプトにある。ヘロドトスの歴史にある話なのだけど、むかし、詳しい年代は覚えていないが、間違いなく3000年以上前に、エジプト人が、自分達が最も古くから文明を持っている民族だ。と言いだして、これを実験によって立証しようとした。その実験が、これと全く逆で、子供をヤギ小屋で、絶対に言葉聞かせないようにして、乳母によって育て、この状況下で一番最初に発する言葉は何だったのか。というものだった。ここで、エジプト語の言葉が出るならば、人間に内在したルーツは全てエジプトにあって、エジプト文明が一番古くからあることが立証されるだろう。と考えられたからである。ところで、ヘロドトスは、この実験自体をばかばかしいことと言っていたと思う。それで、結果なのだけど、確かその子供は二年したとき「ベコス」と言ったと思う。そして、これはプリギュア人の、つまりエジプト以外の言葉で、「パン」という意味だったらしい。(詳しく知りたい方は、ヘロドトス歴史 第二巻冒頭を参照してください)

 これはちょっとしたおまけの話で、最近、孟子を読んだり、プラトンイデア論に近付いている私は、この記事での実験の結果をやはり何か「本質の現れ」として捉えたわけである。もちろん、現実的な状況も重要だ。彼ら子供一般には、まず、集中力や好奇心があり、常識に捉われない強さがある。例えば、これと同じことは、日本の子供にはできないだろう。なぜなら、まず時間的拘束も大きいし、親に「それは難しいからできないよ」と刷り込まれているからである。これらの環境要因はさておいて、私は、この何も知らないはずの子供たちが、少なくとも言語(恐らく英語は外国語であろう)を教えられずに理解し、それをどういった形でかはわからないにせよ理解し、その他、アンドロイドに付随することも何らかの形で教えられず理解したということを、とても興味深く感じるわけである。

 それで、先に述べたように、私はこの理由を人間の本質そのもの、プラトンイデア孟子性善説に求めたわけである。

 つまり、当たり前と言えば当たり前だけど、人間には内在して同じ感性や理解能力があり、アンドロイドのような多くの人、多くの個性が関わったようなものでも、一個として人間の範疇を越えず、その人間の本性に従ってできているのに過ぎないという意味だ。すると、子供は自分の本性に従って、アンドロイドの操作方法を表出したに過ぎないと考えられる。

 この記事での実験が、果たして、性善説イデア論を裏打ちするものであるかは置いておいて、この事例はとても興味深いことと思う。ちなみに、イデアとは英語のideaの語源であることを考えると、あながち私のこの論説も間違ったものではないと思う。孟子にも、「聖人には子供のような無垢なところがある」という記述があることも付記しておこう。