ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ を読んで

ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ (中公新書)

ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ (中公新書)

いろいろと示唆的なことが多く書かれていた。

ただ、編集者と著者がうまくいっていなかったのだろうか、ときどき文脈というか、話の筋が入り乱れていて、イマイチ何を言いたいのか分からない部分があった。著者の方が経済畑出身の方で、経済学との接点ということでは、他のソーシャル・キャピタルの本よりも示唆的であろうと思われる。

ソーシャル・キャピタル社会関係資本)を簡単に言うと、「人間関係」のことである。私としては、こういったことが学術として研究されていた事自体知らなかったし、こういった研究がされていて、かなり参考になる分野だなぁと思った。

途中読み進めていて特に思ったことが「ダライラマの言ってることを立証しているに過ぎない」ということだった。逆に言えば、ダライラマが言っていることや、宗教でしか言われないことが、学術として立証されつつあり、とても興味深かった。つまり、思いやり、隣人愛のあるコミュニティでは、人は長生きするし、いざこざは起きないし、とにかくいいことづくめということである。そしてそれが、事実として学術的に立証されたと書かれているのだ。

ただし、どうも「ソーシャル・キャピタル」という言葉自体には、負の面、つまりコネとか、賄賂とか、贔屓にするとか、そういったものも含まれている。だから、ソーシャル・キャピタルとは、単なる「人間関係」のことなのだ。しかし、この「ソーシャル・キャピタル」を質的に分離し、さらにそれを学術的に記述できれば、「隣人愛」「思いやり」を科学の領域内で立証できることになる。私としても、今後この分野を注視していきたいし、とても期待できる学問分野と思う。

また、興味深い報告として、「格差の拡大が平均寿命を縮める」というのがあった。それに関連して、「日本の格差は、アメリカのような『富裕層の一人勝ち』でなくて、『貧困層の一人負け』である」と書かれていて、なるほどっと思った。つまり、私は、日本には格差などないと思っていたのだ。事実、私の住んでいる田舎では、ほとんどみんな中流の暮らしをしていて「うちは金がない」などと言っている人も自家用車を持っているし、時にはそれが高級車(3ナンバー)で、確かに寡婦とか、学歴の問題で仕事がない人もいるけれど、死ぬほど金に困っているわけでないし、何より貧困と思われる人は数が少ない。けれど、この本を読んでみると、貧困世帯は主に単身世帯らしく、単身世帯は都市部に集中しているのだから、私が格差を実感できないのもうなずける話なのだ。格差と寿命などの関係については、別個で「社会疫学」という学問分野があるらしく、そちらも少し調べてみたいと思った。

巻末には参考書も紹介されていて、至れり尽くせりという感じになっている。