学問のすすめ 要約 四編

四編 今、学者がやるべきこと

学者の職分を論ず

第一段落
 日本が、今後独立の地位を保てるのか?という問いに対して、現在は疑問符が付く状況である。だから、日本は進歩しているようではあるけれど、何の疑いもなく独立の地位を得ているわけではない。こういったわけであるから、われわれ人民は、政府と協力して、政府の役目でない自分の役目と分限を尽くすことにより、日本の独立を維持しなければならない。

第二段落
 体を維持するために、飲食をしたり、また痛みなどを感じて生命の危険を感じたりするように、国にも、外からの滋養や刺激が必要である。そして、この外からの滋養や刺激というのが人民の活動に他ならず、人民による外からの力と、政府による内の力、こういった内と外の二つの力が釣り合わないと、ものごとはうまく進まないというものが「力の平均の理」である。

第三段落
 そして、文明国の独立に必要なものとは、学術、商売、法律、この三つに他ならない。

第四段落
 この三つを発達させるために、政府は力を尽くしていはいるのだけど、いまだ人民が無知文盲にして無気力な愚民であるために、思うように国が発展していかない。つまり、一国の文明を発展させるためには、政府の独力ではなんともならないのである。

第五段落
 これに対して、最初のうちだけ政府が人民を導いて、軌道に乗ったら、人民が自発的に文明の域に入っていくようにすればいい。という意見もある。

 だが、現在の日本社会には動かし難い気風というものがあることによって、この説が行われることはない。この気風とは、政府は人民を威で脅して詐術で欺き、人民は政府の目を逃れては偽り表向きだけ従うような風潮のことである。この気風が社会に及ぼしている影響を例えてみると、政府の立派な士君子も民間の博識な良民も、私事では立派で慕うべき行動をするのに、いざ公のこととなると、この気風に乗って恥知らずで道理知らずな行動を取るのである。

 だから、政府が人民を導こうとすると、結局のところ、政府が人民を威で脅すか詐術で欺くということになってしまう。こういったわけで、文明を発展するためには、政府に頼っているだけというわけにはいかないのである。

第六段落
 この気風をなんとかするためには、皆の手本となる人が必要である。そして、この手本となるべき人は、洋学者流であると言えよう。しかし、この人に簡単には頼れない事情もある。というのも、儒学などの影響で、洋学者流の多くが、政府に頼らなければ何もできないと思っており、また政府に仕えることでしか出世できないと思っているからである。

 こういったこともあって世の人はますますこの風になびき、役人を慕い役人を頼み、役人を恐れ役人にへつらい、少しも独立しようという気持ちの現れる者がいなくて、この醜態は見るに堪えないものとなっているのである。これは、新聞や政府への意見書を見ても分かることで、それらを書いている洋学者流が、あたかも客にこびる水商売の女か、人を神とあがめる狂人のように思えるほどである。

 このようになってしまう理由は、まだ世間に民権について唱えるということの実例が無いということと、例の卑屈な気風に制せられていることによる。そして、その気風に雷同して、人民としてでなくて国民としての本色を現すことができないのである。しかし、人民の卑屈な気風を一洗して世の中の文明を進めるためには、現在の洋学者流に頼らなければならない。

第七段落
 だから、私自身がこの先駆けとなろうと思う。つまり、私自身が私立の地位を占めて、国民の分限を越えないことならば、何でもかまうことなくこれを行い、固く法を守って正しく事に当たり、もしも、政治に不備があっておかしなことになってしまうようなら、自分の地位を屈さないでそれについて議論して、皆の手本となるのである。

 こうして、社会の事業は、全て政府の手によるものではないということが示せるのならば、上下固有の気風も次第に消滅して、始めて真の日本国民を生じることができ、人民は政府の玩具でなくして政府にとっての刺激となり、学術・商売・法律の三者も、自ずからこれを本来所有すべき国民に帰ることとなり、国民の力と政府の力とが互いに相い平均して、そうして全国の独立を維持することもできよう。

第八段落
 今まで論じてきたことの概要は、今の世の学者が、この国の独立を助けて成就させようとするにあたって、政府の範囲内で役人として事を行う場合と、その範囲を脱して私立する場合との利害得失を述べて、私立の方に大きく味方したものである。しかし、この意見は、普段からの自分の考えを信じてこれを論じたに過ぎない。私立に害があるとの確証があるのなら、私も喜んでその説に従おう。

付録
 私立の地位を占めることの不利を訴える四点の指摘を、福沢が論駁している。


まとめ
http://d.hatena.ne.jp/keigossa/20121007/1349584536