わかりやすい論語18 君子危きに近寄らず

はじめに

この言葉は実は論語にはありません。ですが、論語をよく勉強すれば、この「君子危きに近寄らず」も意味の分かる言葉です。この前、君子と検索画面に入れてみたら、これが一番上に来たので、説明したくなりました。

君子危きに近寄らず
(ことわざ)

現代語訳
立派な人は、あやういことをしない。

解説
 この言葉の意味を知るためには、まず、「あやうい」とはどういう意味なのかを知らなければなりません。なぜなら、燃え盛る炎の中に突っ込んでいくことは、「無謀」であって、「あやうい」以前の話であるからです。これは、「あやういこと」でなくて、「危ないこと」と言えるでしょう。

 実は、この「君子危きに近寄らず」にそっくりな言葉が、孫子にもあります。「彼を知り己を知れば百戦して殆(あや)うからず」です。この部分は、孫子の中でも私が一番好きな部分です。この言葉と並べると、少し意味がわかるのではないでしょうか。

 最初に私が挙げたことは「あやうい」とはどういうことか。ということでした。実はこの言葉では、この「あやういこと」自体が敵(彼)なのです。「あやういこと」と「自分自身」をしっかりと知っていて、自分がその「あやういこと」に征服されるようなことがあるでしょうか。炎という敵があまりにも大きいと知っていて、自分が火傷する人間であると知っているならば、炎に無謀にも突っ込む人間はいないでしょう。逆に、炎が弱くて、防火服を着ているのなら、これに突っ込むことは間違ったことではありません。このように、自分とその対象の状況を、冷静にしっかりと把握できていれば、「あやういこと」自体が無くなるわけです。

 君子と言う者は、慎み深く、己の心と向き合い、そして頭はいつも冷静にしているものです。自分の心の実力を知って、慎み深く冷静に考えるならば、たとえば綺麗な女性が沢山いるお店に行くことは「あやういこと」だということが分かるはずですし、自分の実力を明らかに上回っている仕事に手をつけることが「あやういこと」だと分かるはずですし、成功の見込みがほとんどないことに巨額の投資金をつぎ込むことも「あやういこと」だと分かるはずです。このように、「あやういこと」は、常に自分と自分以外の状況とを的確に把握することから判断できるのです。この過程をしっかりと行って、「あやうくない」と判断できれば、「虎穴に入って虎子を得る」こともできるでしょう。しかし、この判断を行って、少しでも、失敗や自分の心の堕落の余地があるならば、それは正真正銘の「あやういこと」です。近寄らないに越したことはありません。