開放システムと閉鎖システム(コンピュータと生き物の決定的違い)

開放システムと閉鎖システム、この言葉の意味は、使う分野によってだいぶ異なるようである。

社会学の分野で開放・閉鎖システムというと、例えば、アメリカのような自由移民「開放システム」形社会、とか、日本の江戸時代のような鎖国「閉鎖システム」形社会というように使う。つまり、これらの言葉は、社会の構成分子である人間が、そのシステムで囲われた部分を行き来できるかどうか、ということによって、定義される言葉なのである。

この場合の開放・閉鎖システムを、何かに簡単に例えてみると、猫社会と犬社会でうまく説明できるのではないか。

猫は、かなりやんわりした社会を形成する。まず、猫の一般的な生態として、群れは作らない。さらに、猫同志の交流もかなり不規則で、盛りの時期になると喧嘩ばかりしていると思えば、猫の集会の目撃例もあったり、親子や兄弟で仲良く暮らしているかと思えば、なわばりの関係で一匹か二匹だけになっていたりする。人間も絡めて言うなら、猫はどこの家のエサでも食べるし、時には名前がいくつもある猫もいるそうな。こういった感じで、猫社会において、猫の交流は非常に開放的で、猫は開放システムの中で生きていると言える。

これに対して、犬はかなり秩序だった社会を形成する。まず、犬の一般的な生態として、もとは狼ということもあり、野生化すると群れを形成する。飼われている状況だったとしても、犬は、ほとんどの場合首輪で繋がれていて、自由に行動することができない。だから、犬同士の交流といえば、散歩で飼い主同志がすれ違った時とか、ワクチン接種のときとか、かなり限られたものになる。さらに、エサは飼い主からしかもらえずに、接する人間も、その飼い主のお客さん程度である。こういったわけで、犬は、かなり限られた閉鎖社会の中に住んでいて、閉鎖システムの中に生きていると言える。


しかし、システム工学や複雑系での「開放システムと閉鎖システム」というと、全く逆の例えになる。つまり、猫は非常に閉鎖システム的な生き物であり、犬は非常に開放システム的な生き物ということになるのだ。

どういったことかと言うと、猫は非常に「閉鎖システム的生き物」だから、人間の言うことも聞かないし、猫の行動はほとんど制御することができない。これに対して、犬は非常に「開放システム的生き物」だから、人間の言うことも聞くし、犬の行動はある程度制御することができる。

直接的に説明すると、「開放システム」とは、「インプットに対してアウトプットがどうなるか分かっているシステム」のことなのだ。どうして開放システムと言うかというと、そのシステムが自己完結的に閉鎖しておらず、開放しているからである。

例えば、犬は、「お手」と言って手のひらを差し出すと、必ず前足をその手のひらの上に乗せる。どうしてこういったことが起こるかというと、犬が完全に自己完結していなくて、人に対して自分を開放しているからなのである。もっと詳しく言うと、犬からしてみれば、これは、「お手と言われたとき、お手をする」という自分の内部の部分をさらけ出していることに他ならない。こういったように、自分の内部が外部にさらけ出されているようなシステムを開放システムと言う。

これの代表格は、コンピュータと言えるだろう。コンピュータは、Aというインプットに対して、必ずBというアウトプットをするシステムである。ウィンドウズで例えると、右上のバツマークをクリックすると、そのウインドウは必ず消える。もし仮に、それ以外の反応をする場合は、壊れているということになる。また、コンピュータが人間の予測外の計算をしたという話は聞いたことがない。人間の将棋チャンピオンにコンピュータが勝ったらしいけど、これは、そのチャンピオンがコンピュータの動きを予測できなかっただけで、実は、このコンピュータを作った人はそのコンピュータの動きを予測している。こういったように、コンピュータは必ず開放システム(内部をさらけ出したシステム)なのである。

これに対して、閉鎖システムは、自分の内部をさらけ出さないし、インプットに対して常に同じアウトプットをするとは限らない。猫もそうだ。「お手」なんて言ってみると、そっぽを向いてどこかに行くときもあれば、お手するときもあるし、擦り寄ってくるときもある。こういったように、自分の内部システムが自己完結的で、外に対して閉鎖されている場合、それは「閉鎖システム」と言われる。

それで、これの代表格は、実は生き物全般である。コンピュータと比べれば、犬もかなり閉鎖システムである。なぜなら、犬は、「お手」を覚えるまでの個体差もあるし、覚えられない犬もいる。それに、エサも同時に出せば、お手しないでエサに飛びつくかもしれない。またお手を強要しても、機嫌が悪くていきなり噛み付くこともあり得る。

けれど、コンピュータのような完全開放システムではこういったことは起こりえない。コンピュータは、必ず人間が意図した通りに動く。これが、開放システムと閉鎖システムの決定的違いである。生き物とコンピュータの違いは、実は、このように非常に顕著で明白なものなのである。一方は必ず意図され予測された通りに動き、一方は意図され予測された通りに動くとは限らないのだ。

とは言っても、閉鎖システムである生き物には、個体差があって、犬のように開放システムが多い場合もある。人間も同様で、開放システムをどれだけ持っているかには個人差がある。ちなみに、開放システムの割合が多い人は、「権力の犬」とか「社長の犬」とか「会社の犬」とか言われる。