人と比べない生き方(SB新書)を読んで

全体的な筆致としては、説明形式の本であった。
このため、読者の感情や思考に直接呼びかけるのでなく、アドラー心理学というものを読者に説明し、これを理解してもらうことで何か得る所があるのでは?というスタンスで書かれた本ということになる。

内容としては、上記のようにアドラー心理学が基調となっており、森田療法コフートからの援用がところどころあるというものだった。

そこで、この著者の方が言うところのアドラー心理学がどういったものかと言うと、人は成功体験を重ねることにより、心に優越性を持てるようになり、優越性を持てるようになると共同体感覚が持てるようになって、劣等感がなくなりいろいろうまくいく、というもののようだ。

私の感想としては、著者の方には大変失礼であるが、この著者の方は、「昔の仏教集団とかで、非常に高弟であり、また皆からの信頼も厚いが、なぜか師匠からは認められず、後継者に選ばれないタイプ」だなぁと思った。そう思った理由は、確かにアドラー心理学には詳しいのであろうが、この方が、恐らくアドラーが一生懸命読んだと思われるプラトンアリストテレス、聖書といった古典をしっかり読んでいないと思われることがある。理解が表層的に感じられ、深い考えや親身さが伝わってこないのだ。その時に評価される、また、その時に必要な、最も効率のよい方法を一直線に進んで、寄り道をしていないと思われるので、全く深みが感じられない。著書量産型の著者であることも関係しているだろう。この点に目をつむって、アドラー心理学の概要をつかむということなら、それなりの本ではあると思う。

あと、全体を読んでも、全然スッキリした感覚が得られないのであるが、この理由として、この著者の方が受験の神様とか言われていることが関係している。というのも、とにかく「勝つこと」「勝って優越性を持つこと」が全面に出ており、これが全ての解決法みたいな印象を受けるからである。しかし、私は、「優越性のあるはずの人がかなりひねくれた性格であったり、依存症であったり、普段から満足感を感じていないように見える」という事例をいくつも見ているのである。だから、この著者の方は、かなり友人や知り合いに恵まれていたのだろうし、受験への対策というようなことが基調としてあるのだろうと思った。

私の考えとしては、まず、競争の対象は「古今東西一等の人物」とすべきと思う。これは、吉田松陰など幕末の志士に絶大な影響を与えた佐藤一斎の考えでもある。つまり、孔子ブッダ、キリスト、など人類史上でこの上なく尊崇される人をまず競争相手として選び、彼らに追いつけ追い越せしなければならない。それで、これらの聖人を基準として、彼らに近づくことを「優越性」とするのだ。皆がこのような目標で、このような競争をし続けるならば、この世が理想郷になること、また、悩みを抱える人が減ることは、誰も疑うべくもあるまい。

本当は内容について、もう少し細かく書こうと思ったのだけど、それはメモに残してあるし、あまりにも長くなってしまったので、このレヴューはこれで終わりにしようと思う。興味深かった単語だけ、以下に列挙する。

スクールカースト
劣等感⇒劣等コンプレックス
人の悪い所が見える時の3つの理由
ジゾフレア型=統合失調型、メランコリア型=躁鬱型
成功体験、認知行動療法
森田療法:劣等感の本来の理由を思い出して認知行動療法をする
例:背が低い(劣等コンプレックス)⇒女性にモテない(本来の理由)⇒背が低いのはどうにもならないから、これを忘れて、別の方法、つまり性格が良くなることを目指す
依存とは依存することで空虚を一時的に解消すること
共同体感覚と優越性