クロイソス

ヘロドトスの歴史という本を最近は読んでいる。

これはもう何年も前に読もうと思って購入したのだけど、途中で読まずに放ってあったものだ。なんとなく思い出して読むことにしてみた。

この歴史の中のかなり前半にクロイソスという登場人物が出てくる。

このクロイソスは、リディア、今で言うところのトルコ西部の王で、当時の首都はサルディスと呼ばれるところであった。

クロイソスはサルディスで栄華を極めていた。また、非常に信心深く、アテナの神殿やその他いろいろな信託所に相当数、現代日本の円で例えれば、100億円分(かなり適当)にもくだらない奉納物を納めていた。

このように栄華を極めていたクロイソスは、ある時賢者として名高いソロンが自国を訪れた時に、この賢者をして自分の栄華と幸福を見せつけようとして、彼に自分の宮殿をくまなく見せてから言った。

「ソロンよ、どうじゃ、この世で一番幸福な者は誰か?」と、

しかし、ソロンは、一向にクロイソスという名を出さず、既に死んだもののうちで、名誉の死を遂げた者ばかりの名を挙げるだけであった。しびれを切らしたクロイソスが、ソロンに幸福とは何かと問うと、ソロンは言った。

「人間は死ぬまで何が起こるか分かりませぬ」と。

ところで、クロイソスには二人の息子があった。一人はものをしゃべることができない、いわゆる不具者であった。これに対してもう一人の息子は、見る目にも立派で、同輩から抜きん出る能力を備えた者であった。

クロイソスは、ある日、この立派な息子が槍に貫かれて死ぬ夢を見て、大層心配となり、この息子を宮殿から出さぬように手配をした。しかし、この夢は正夢となってしまう。巨大イノシシ退治に出たいと言った息子に、「イノシシは槍を持っていませんから、私が死ぬことはないでしょう」と説かれ、これを許したのだ。そして、あろうことか、彼の従者の持つ槍が彼を殺してしまうのだ。

しかし、クロイソスの不運はこれでは終わらない。

ペルシアの勢力が盛んになり、このことについて信託所に問うてみると、ペルシアに攻めこめばペルシアを滅亡に追い込める”とも意味の取れる”信託を受け取るのだ。クロイソスは入念に信託所に奉納を重ねてすると、ペルシアへの遠征軍を編成して、出立する。

だが、戦況は思わしくなく、結局は首都サルディスでペルシアの軍勢を迎え撃つこととなる。サルディスは堅城であったが、一箇所だけ崖で守られた所があり、ここの兵は手薄であった。ひょんなことから、ここが実は城の中に入る簡単な経路であることがペルシア軍に知れ渡り、一気にサルディスは占領されてしまう。

ペルシアの時の王、キュロスは、配下にクロイソスだけは殺さずに連れて来い、と命じていたのだが、ペルシア兵がクロイソスの顔を知るはずもない。

クロイソスは、ペルシア兵の凶刃に果てることとなった、かとおもいきや、この時に、例の不具者の息子、今までに言葉を一度も発したことが無かった、が「これはクロイソスだ、殺してくれるな」と叫んだという。

この言葉に気がついたペルシア兵は、クロイソスを捉え、キュロスの前に連れ出した。

結局、クロイソスは、キュロスによって焼きつくす犠牲にされることになり、膨大な量の薪の上にくくられ、殺されることとなる。

薪に火がかけられ、業火がクロイソスを覆い始めると、クロイソスはソロンのことを思い出し、「ソーローン! ソーローン!」とその名を何度も叫んだ。

これを聞いたキュロスが、不審に思い、クロイソスを解き放てと命じた。とはいえ、火の手はもはやクロイソスを覆っている。このとき、不思議なことに雨が降り始め、遂にクロイソスはその生命を繋ぐこととなる。

この後、クロイソスはキュロスに仕えることとなり、その条件として、信託所に使いをやりたいと頼み込んだ。というのも、神は自分を騙したし、自分は信心深かったのに、どうしてこのような目に遭わなければならないのか、神に問い質そうと思ったからである。

こうして、クロイソスは神からの返答を聞くのであるが、その内容はこのようなものであった。

「信託に関してはおぬしが勝手に勘違いしただけじゃ、あの信託はどちらが亡ぶかという所にロバの例えがあったが、それをおぬしは読み違えた。ロバとはペルシアのことなのじゃ。それにそもそも、おぬしのリディアが亡ぶことはもう決まっておったことなのじゃ。本来なら、三年前に滅ぼす所を、おぬしが信心深かったから、今の時期まで遅らせたのじゃ。もうひとつ言えば、おぬしも死ぬはずであったが現に今、生きておるであろう」

おわり

既に映画としてあるような気がするけど、映画とかの話としてとても面白いだろうなぁと思う。