185.荀子 現代語訳 賦第二十六 五・六章

五章

 ここに物があります。
 山中に生じて 室内に処し
 知なく功なくも 善く衣服を治め
 掠め取り 盗むわけでないのに かがみうがって進み
 昼も夜も 離れているものを 合わせて 綾模様に飾り
 その功績 甚だ広きも その賢良は見えず
 時が来て 用いられれば 存するけれど 時合わず 用いられずば すなわち亡ぶ
 臣下私めは 愚かにて これが一体何なのか とんと検討つきませぬ
 敢えて問います 王様に これは一体何ですか

 王は答えた。
 これはかの 始まり生じたとき巨大なるも その功労するとき小さいものか
 その尾を長くして その先を鋭くするものか
 頭はとがっていて 尾は広がりまとわるものか
 こちらへ来て あちらへ行き 尾を結んで 事を成し
 羽なく 翼なく 反復すること 甚だ速やかにして
 尾が生じて 事が起こり 尾を巡らせて 事を終わる
 錐を父として 箱を母として 既に表を縫えば また裏をも連ねる
 これこそは 針の条理と言えようか

 ーーー 針 ーーー

六章

 ああ、天下は治まらない。お願いだから、この奇怪な詩を述べさせて欲しい。
 天と地は位を入れ替え 四季は本来の姿を入れ替え 列星は流れ堕ち 日も暮れて暗闇となる
 幽暗の小人が上り顕れ 日月の君子が下り隠れ
 公正無私なのに 詭弁を弄すと言われ
 心は公利を愛するに 豪邸に住んで仕事をしていないと言われ
 罪人をかばうことがないだけのに 兵器を備えて戦争をする気だと言われ
 道徳が純粋に備わっているのに 讒言は次々に起こる
 仁人は屈して縮まり 暴慢が欲しいままにして強し
 天下はおぼろげで険しい 英雄は失われていくだろう
 龍をヤモリとして フクロウを鳳凰として 比干は胸を裂かれ 孔子は匡の地に足止めされ
 はっきりと知を明らかにしようとしても 払いのけられて時世の不運に遭い
 のびのびと礼義が行われるようにしようとしても 闇の中で天下の目暗とされる
 輝きのある天は帰ってこない この憂いだけが限りなし
 そうでは合っても 千年すれば必ず帰ってくると それが昔からの常なのだ
 弟子が学を努めれば 天はその努めを忘れず 聖人が手をこまねく時も きっと来るであろう
 何も知らぬ愚か者となって心を落ち着け この詩への返歌を聞いてみよう

 その小歌。
 あちら側の遠方のことを思えば なんとも苦労ばかりが多いことよ
 仁人は屈して縮まって 暴人が僥倖を得て
 忠臣は危うくなって 讒言の人が楽しむ
 指輪や腕輪は 身に付けるものであるのに それを身につけることも知らず
 布と糸を混ぜてしまって その違いさえ分からない
 美女や美男に近寄らないで 醜女や醜男を見ては喜ぶ
 目暗を目が良いとして 遠耳を耳が良いとする
 危ないことに安心して 吉事を凶事とする
 ああ、上天よ、どうしてこんなことに賛同できようか


まとめ
http://d.hatena.ne.jp/keigossa/20130104/1357283885


解説及び感想

■五章の針というのも、君子や儒者のことであろう。六章については、今までとほぼ同義である。この時代を憂えていた荀子の気持ちがよく分かる。