経済成長神話の終わりを読んで

経済成長神話の終わり 減成長と日本の希望 (講談社現代新書)

経済成長神話の終わり 減成長と日本の希望 (講談社現代新書)

この本で一貫していることは、「GDPの数値に踊らされてはならない」ということである。そして、そういったことに付随して起こる問題を「減成長(デクルワサンス)による繁栄」というキーワードを軸にして解決しようと訴えている。

私も、経済信仰教や経済成長神一神教を批判する先駆者を自負している身である。だから言わせてもらうが、この本は、GDPの否定ということに関して優れたものであるが、それ以外でさほど優れているとは言えない。

一つ目の気に入らなかった点は、現在の経済指標などを尽く全て非難していて、現在の経済を全く認めていないことである。しかし、あとがきを読んでみると、そこには、「現時点と理想との妥協も必要であるが、それを許すべきでないという考えに基づいている」と書かれている。このため、著者の方も、この偏りについては自覚していると思われる。自覚の上での偏りなら、その点について、私は何も批判しない。

しかし、やり方や考え方の問題で、批判すべき点がある。それは、この著者の方の改善策へのアプローチが、基本的に、「経済成長の悪い部分を見つけて、それを補うような方法を考える」というものであることだ。つまり、「悪いところを補う」という考え方を抜け出していない。私は、この点については批判したい。この方法だけではなくて、もっと核心から、全てを覆すような革新を考え、悪いところを補う何かではなく、善い物を生み出す何かを考えなければならないと思うからだ。そうしないと、この「経済成長に付随するゆがみの問題」を解決することはできないだろうと思う。

力作であることは間違いないし、まだ経済成長神一神教の信者であるのなら、そういった人にとっては、読む価値のある本と思う。