民法改正を考えるを読んで

民法改正を考える (岩波新書)

民法改正を考える (岩波新書)

非常に面白かった。

法律門外漢の人だと、少し難しいかもしれない。そういった意味で、せめて他の法学入門書を読んだ後の人か、法律に携わるような仕事をしている人ならば、相当に興味深く読めるだろうと思う。

法学者の中でも、民法について詳しく、比較法学とか法学の歴史とかに詳しいように思う。

また、話自体も、比較法学や法学の歴史などから紐解いて解説していて、特に、歴史的に民法を知りたい人にはかなり有効な書物だと思う。

最後のあたりでは、これからの民法の具体像が書かれており、それも前頁までの話をしっかりと踏襲している。全部は理解できなかったので、また読みたいと思う。

また、民法の枠組み自体を変えてしまうような提案も為されており、そういった意味では、学会でも大胆なものと捉えられるものなのではないかと思った。具体的には、パンデクテン方式(ドイツ式・学術向け)という編纂方式を変えるとか、民法憲法の自由の要素をもっと取り込むとかである。これに関連して、民法憲法より重要な市民法として捉える考え方は驚愕であった。しかし、ヨーロッパの近代化は、ナポレオン法典の流布によるところが大きいのも事実であるから、なるほど、とそれなりに納得できたのである。


未来への具体的な流れに関しては、(以下は第四章の要約抜粋)

1.債権法改正が目指すもの 「契約による社会の構想」

債権から契約へ
今までは「債権:もらったりやらせたりする権利」が中心の考え方だったが、「契約:事前にした約束」の方を中心に考えるようになる。

制度から契約へ
今までは「制度:(国などの機関によって)決められていて守らなければならないこと」によって為されていたことが、「契約:当事者がお互いに同意して決めたこと」によって為してもよいという考えになっていく。ここでは驚くべきことに、結婚など家族に関する制度すら、契約になるという考え方に言及している。

合意でなく契約を
しかし、合意だと、知っているものが有利になって、知らないものが不利になる。だから、そういったものは契約でなくて合意であり、契約は合意と全く同じものでないと言う。

類型と公序
契約とは、ある程度、類型に型はめできるものだが、それに型はめできないものでも、「公序(良俗)に反するもの」はそもそも契約ではない。

「契約によるものは正しい」
フランスの契約社会論というのを出して、社会は契約によって成り立っているとする。(今後、国家との関係も、いくらかのオプションから選べる自由な契約になっていくかもしれない)

契約による社会へ 新しい制度を作り出す
このように、契約の自由化が進めば、契約はどんどんと創発されることになる。そうして、どんどんと新しい社会と制度を作り出す。また、これは、啓蒙思想による社会契約(人は生まれながらに権利を有するという考え方)と相反するものではない。

メタ制度としての契約法 契約を支援する
そういった意味でも、民法典の債権法は、個人が契約することによって制度を生み出していくための制度ということになる。つまり、個々の契約により新たな制度を作るための制度(一つ上の次元の制度)ということである。

2.契約法改正に続くもの 人格の保護のために

不法行為法の世紀 財産から人身・人格へ
不法行為法は民法709条によるのだが、民法が適用される裁判では、これに関するものが5件に1件ほどもあるようになった。それは、これが職務上の事故や公害にも適用されることが多くなってきたからである。

人身の保護 交通事故・公害
そして、世論はそれを受け入れた。

人格の保護 プライバシー以後
1970「宴のあと」事件以後、プライバシー権は拡張され続け、パワハラ・セクハラ・少数者の利益保護、などの観点から、弱者がリストラされるのでなくて、むしろ強者や社会悪が社会からリストラされるようになった。

人格権の潜在と顕在化
このように、不法行為法は、人格権や人身の保護と密接に関わり発展した。また、民法701条の「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合」を保護するための、一連の不法行為法は、人格権法を成したとも言える。

人格権の性質
「権利享受能力」のうちの一つの「人格権:自分が自己の選択した自分である権利」という側面と、「所有権」に属する面での「人格権:自分や自分が所有するものに対して損害賠償などを求める権利」という側面がある。

人格権の構造
一般的人格権を規定するものはないが、人が人である以上、人格に関する権利を有することは、定義上当然である。

3さらに、その先へ 市民の法へ

財産から人格へ 「人の法」の再評価
現在の民法は、財産中心の考え方であるが、これが人中心の考え方へと移行していく。

「人間」の顔をした民法
民法典が「人間化」するということは、人が「人としての価値実現(人としてよりよく生きる)」ことを、法によって秩序付けることである。

所有権と利用権の再編へ
土地の所有権と利用券とは、分離され、それらは、必ずしも同一のものではない。

契約や団体は何のために
これらは、もちろん人のためにあるわけであるが、民法典の編纂の仕方によっては、本末も転倒しかねない。また、そういった意味でも、民法典は、契約による「人と人との結びつき」、団体による「人の人との結びつき」といったものの一形態となり、団体訴権というものにも結びついていく。