70.荀子 王制第九 十一章

十一章

 北方は馬や犬の産地であるが、中国ではこれを運んできて家畜として用いる。南方は鳥の羽や象牙や犀の革などの産地であるが、中国はこれを運んできて財物とする。東方は紫草やくずや魚や塩の産地であるが、中国はこれを運んできて衣服としたり食物とする。西方は獣の皮や美しい牛の尾の産地であるが、中国はこれを運んできて使用する。

 だから、水際に住んでいる人も薪や建築の木材に事欠くことはなく、山に住んでいる人も魚に事欠くことなく、農夫は切ったり削ったりしなくても道具に事欠くことなく、職人や商人は耕すことをしなくても豆や穀物に事欠くことはない。虎や豹は猛獣であるけれど、君子はこの皮を剥いで用いるのである。

 こいうったことであるから、天に覆われているもの、地に載せられているものの全てが、その美しさを尽くして、その便利を人間にもたらさないということはないのである。上は賢良を飾って、下は百姓を養って安楽に生活させる。こいういったことを非常に良く治まる(大神治)と言う。

 詩経 周頌・天作篇に、「天が高山を起こして、大王がこれを開拓し、そして起こして、文王がこれを安定させた」とあるのはこのことを言ったのである。


まとめ
http://d.hatena.ne.jp/keigossa/20130104/1357283885


解説及び感想

荀子が現代を見たら、大喜びするだろう。遥か彼方地球の裏側で出た石油がこの日本にもたらされて、この石油をもとにして作られたものがまた地球の裏側に戻る。世界中が一つとなって、その物品を共有しているのである。そして、これを共有させているものは貨幣に他ならない。貨幣が有るからこそ、こういった物流が実現されているのである。

■「虎や豹は猛獣であるけれど、君子はこの皮を剥いで用いるのである」の一文は、一見無意味なようであるけれど、原発のことを考えて頂けると分かると思う。原発は猛獣であるけれど、もしもこれを皮を剥いで使うようにしっかりと人類の範疇で使えれば、人類にとってこれより便利で好都合なものはない。

■この「全てのものは人間のためにある」と言ったような考え方はソクラテスと共通している。ソクラテスの場合だと、全てのものは人間のためにあり、それを作り出した神々は素晴らしいと言った方向に話が進んでいく。