49.荀子 現代語訳 仲尼第七 二章

二章

 君主から寵愛を受け、自分の位を維持して、終身遠ざけられないための方法。

 君主が自分を尊敬したならば、それを大事に受けとめた上で恭しくして身を退けるようにする。君主が自分を信じて大事にしてくれるならば、慎み深くそれを受け止めて調子に乗らないようにする。君主が自分を頼って事を任せてくれるならば、その任せられたことを一途に守って細かいことにも気を配るようにする。君主が安心して自分に近付いてくるならば、君主の善に同ずるようにして親しんで邪な妄想を抱かないようにする。君主が自分を疎遠にするならば、心を殺してでも背を向けないようにする。君主が自分を害して馬鹿にするならば、恐れおおののいて怨まないようにする。

 貴くなったとしても派手に贅沢をしないようにし、信じられたとしても調子に乗らないようにし、頼られたとしても全てを自分の手中に収めないようにする。財貨や利益を得るならば、富を手に入れることより善行の方が貴いことを忘れずに、是が非でもその富を得ようとすることなく、自分にそれを受ける価値があるかどうかをしっかりと考えてからその富を得るようにする。好ましいことがあるのならば、はしゃがないようにして心を和らげる程度にし、災厄があったとしても、落ち込まないよう静かにするようにする。

 富めば施して心を広く持つことを忘れず、貧しいのならば倹約と節約を忘れず、貴賤貧富のどの境遇でもその境遇をその境遇として受け入れるようにし、たとえ殺されるようなことになろうとも悪事はしないようにする。

 これが、寵愛を受け、自分の位を維持して、終身遠ざけられないための方法である。

 貧窮して捨てられ亡命するような立場であっても、これらのことを忘れてはならない。こういった人のことを吉人と言う。(●貧窮徒処の勢に在りと雖も亦た象を是に取るべし。夫れ是れを吉人と謂う)詩経 大雅・下武篇に「美しきかなこの人は 善を忘れず徳を忘れず 善徳の言葉を親のように慕い 善と徳を明らかにして それをつないで伝えていくよ」とあるのはこのことを言ったのである。


まとめ
http://d.hatena.ne.jp/keigossa/20130104/1357283885


解説及び感想

■ここでは、君主と訳しておいたけど、原文では「主」となっている。これは何も、君主とか自分の主とかに限る話で無くて、男女関係とか、その他もろもろ人間付き合い全てで言えることであると思う。また、この章で示されることこそ、人間関係における礼であると言えると思う。

■「謙遜」という言葉は、日本語としてあるけれど、ほとんどの人が意味が分からないだろうと言うことで「調子に乗らないこと」と訳した。謙という言葉の出典は間違いなく易経だろうと思うが、易経「地山謙」の意を深く汲み取ってこの訳にした。自分ではしっくりきていると思う。