謀略のイロハ イロハのハ

 謀略のイロハ、イは意外性であった。次にロは漏であった。では、ハは何か。この言葉は敢えて最後の辺で出したいと思う。そして、今までの叙述では、謀略から身を守る方に主眼が置かれていることも皆さんお気づきのことと思う。だが、心配なされなくても良い、今回遂に、最強の謀略を、ハのキーワードとともに伝授したいと思う。

 最強の謀略とは何か。今までの話の流れからして、最も意外性があり、最も漏の読みとられない謀略こそ、最強の謀略と言うことになる。なぜなら、その謀略は、誰にも気がつかれることなく実行に移され、そして、誰にも邪魔されることもなく必ず完成されるからである。

 では、多くの人にとってより意外性のあることは、次のうちどちらか、「短い期間でのこと」「より長い期間でのこと」、言うまでもなく「より長い期間のこと」であろう。次には、「誰でも知っていること」「あまり多くの人が知らないこと」、もちろんこれも後者だ。

 同じことなのであるが、設問を少し変えよう。「破壊すること」「存続させること」、次に「欲望のこと」「高尚なこと」これらではどちらが先の選択に近いのか?

 今度は、漏の観点から考えてみよう。漏を読み取りやすい場合はどれだろう。「欲望がけた外れに多い場合」「欲望が多い場合」「欲望が中程度の場合」「欲望がほとんどない場合」、これは真ん中二つ以外ということになる。次に、「誰もがいつも感じている欲である場合」「誰もがいつもは感じない欲である場合」、これももちろん後者である。

 ところで、われわれは、この選択肢たちが導くものを良く知っているのではないか?もちろんそれは漠然としたものであるのだが。

 もう一度、言葉を並べてみよう。するとこうなる。最強の謀略とは、長い期間存続させることを目的とした高尚なことで、誰もがいつもは感じない欲求を動機としていて、その欲求はけた外れに大きいか、もしくは欲求そのものがほとんど無い。

 もう一度言おう。われわれは、これを良く知っているのではないか。もちろん漠然とはしているし、この段階まで来ると既に謀略とは呼ばれないのだが。

 しかし、これだけは言おう。謀略を読んで防ぐ場合でも、謀略を行う場合でも、先ほどの一文に適っていればいるほど、自分が有利となるわけである。そして、われわれに最も有利な状況を生み出す謀略の最後の要とは、「ハート」なのである。

 ここには、各自の理想を当てはめて欲しいと思う。つまり、私なら、生きとし生けるもの全てを長く存続させることを目的とした容易にはできないことで、仁や慈悲、慈愛といった欲求を動機としていて、動機の欲求はけた外れに大きいが、それ以外の煩悩に付随する欲求はほとんどないに等しい。そして、この文脈が導く漠然としたもの、最強の謀略とは「徳行」にほかならぬのである。

 これのできる人間は、全ての謀略を防ぐことができる。なぜなら、慈悲より大きくなり得る欲求はなく、それより上位の欲求は無く、真の徳行を具備するならば、下位の欲求は既に征服され、全てが明らかになっているからである。

 逆に、いつも金や肉欲に征服されている人間を見てみよ。彼らは、人のために何かするということを知らないから、いつまでたっても偉人の功業を理解できず、下位の欲求に征服され、より上位の欲求で動いている者のことを理解できない。そして、自分の理解できない不可解な行動を「バカの行動」とバカにするのだ。だが、上位者は、恥も知らず、より高尚なものすら知らず、煩悩の苦界に苦しんでいる彼らを憐れんでいる。どちらがみじめで、どちらがどちらのことを本当に理解しているか、それは明白であろう。