本当にあった(ある意味)怖い話 ヨーロッパ旅行で パート2

 昨日の話の続きになるんだけど、そのフレンドリーなイタリア人らしき男性が、初日に手配してくれた部屋は、とてもいい部屋だった。なぜなら、ユースホステルなのに、二人部屋でバストイレ付、しかも、他の客がいなくて、ぼくひとりでその部屋を使うことができたからだ。

 ぼくは、旅の疲れをいやして、次の日、ベルリン大聖堂や、ベルリンの博物館に行った。そういえば、ぼくのヨーロッパ旅行は、ここが始まりだった。ベルリンの博物館に行ってみると、エジプトの女性の顔の彫刻があって、これがとても見事な品だった。(写真)この作品の技巧のすばらしさ、美しさにすごい感銘を受けたぼくは、そのあと、ヨーロッパ旅行の目的を、博物館や美術館を訪れることに絞ったんだ。

 この作品をどうしてすばらしいと思ったかと言うと、360度、どの方向から見ても均整がとれていたからだった。彫刻だと、普通、前から見た時に重点が置かれていて、前から見た時は良い作品でも、後ろから見るとイマイチ、あわよく後ろに気が使われていても、真横や、斜めから見た時に継ぎ目などがあってイマイチになる場合が多い。だけど、この作品は、どうやって計算したのか分からないのだけど、どの角度から見ても均整がとれていたんだ。ぼくは、美術品というものの素晴らしさにこのとき気がつくことができたんだ。

 そんなこんなで、ぼくは、疲れ果てて、ユースホステルに帰って行った。

 部屋は変わると聞いていたので、新しいかぎをもらって、ぼくは部屋に向かった。その部屋は10人部屋だった。まあ、普通のユースホステルの状態だ。ぼくは、別にそのことには不満は持たなかったし、それが、ごく普通のユースホステルだった。

 まあ、「あんなこと」さえなければね。

 ちょっと、ここで、ユースホステルの部屋について説明しようと思うんだけど、ユースホステルは、日本で言うと「少年自然の家、青年自然の家」にそっくりだ。野外合宿のことを思い出してもらうといいと思う。ただ、都市部にそれがあるだけで、ほとんどあんな状態の施設だ。

 ぼくは、部屋に着くと、荷物を片付けて、シャワーを使いに行った。10人部屋だったけど、ぼくが一番乗りだったみたいで、そのとき、部屋には誰もいなかった。ぼくが旅行に行った時は、ちょうど夏場で、日本よりカラッとしていて涼しいとはいえ、十分に暑い気候だった。シャワーを浴びたあとも、もちろん暑くて、ぼくはほとんど下着姿のまま、部屋の前まで行ったんだ。そして、ドアを開けた時、ぼくは驚愕した。

 ほとんど下着姿の女性が二人、ベッドで横になっていたのだ!

 そして、二人はニヤニヤしながら、ぼくの方を見て、「ハロー」と言ったんだ。

 「エッ!」

 ぼくは、何が起きているのかいまいち理解できなかった。

 だけど、愛想良く「ハロー」と言う二人を無視することはできないし、とりあえず、あわてていないフリをして、「ハロー」と言った。

 その女性たちは、ドア近くのベッドにいたんだけど、ぼくは、あくまであわてていないフリをして、部屋を見渡してみた、すると、部屋の奥の方にも女性が二人いたのだ。つまり、その部屋に、男性がぼく一人しかいなかったのに対して、女性が四人もいたわけだ。ぼくは、あくまでもあわてていないフリをして、もう一度、自分が持っているカギの番号と、部屋にあるロッカーの番号、あとベッドの番号を確かめてみた。やっぱり全て一致していた。

 まあ、ほとんど男性がそうするように、ぼくは一瞬、良からぬ妄想をしてしまった。だけど、ベルリン大聖堂の英霊が、その良からぬ妄想から、ぼくを守ってくれたのかもしれない。興奮も冷めやらぬまま、ぼくは、すぐに部屋をでて、受付のところまで行った。

 そしたら、受付に人はいなくて、そのすぐ近くに昨日とは別の男性がいた。彼は長髪で長身の東洋人だった。年は二十歳前後で、ヒップホップ系の服を身にまとっていた。彼は、確か掃除をしていたと思う。もう6時を過ぎていたけど、夏のヨーロッパの昼は長い。ガラス張りの廊下は、まだ明るくて、その沈まない太陽は、彼を後ろから照らしていた。

 ぼくは、彼がドイツに住んでいる東洋人と思って、

「フラウエン! フラウエン! マイネ ツィンマー! フラウエン!」と言った。ちなみに、フラウエンとはドイツ語で、女性達という意味だ。英語だと、ウーマンでその複数形のウイメンと同じ意味になる。マイネ ツィンマーは、ぼくの部屋っていう意味だ。

 彼は、研修でそこに勤めていたのか、ドイツ語がわからなかったみたいで、眉間にしわを寄せていた。ぼくは、今度は英語で、「Women are in my room!」(女性が私の部屋にいる)と言った。でも、彼は、まだ、ぼくがあわてていることに気がついていないみたいだった。仕方ないので、さらにぼくは、「Is it mistaken? My room is right?」と言った。

 そしたら、ヒップホップ系の彼は、両方の手の親指を立てて、その親指を自分の胸にむけながら、さらに、右足に重心をおいて体を斜めにしてこう言った。

「ミクスド(mixed)!」

 そんなヒップホップな恰好をする彼を、太陽は相変わらず後ろから照らしていた。

 ぼくは、彼を見て、あわてていた自分があほらしくなると同時に、急に疲れがどっと出てきた。そして、「ああ、まあ、そうゆうユースホステルもあるんだな」と思った。そして、「オー、オーケー、アイ シー」と力なく彼に言い、そのまま、また部屋に戻って行った。部屋に戻ったら、学者っぽい黒人男性が一人いた。そして、女性はいなくなっていた。ちょっとがっかりした気持と、安堵感の混ざったような複雑な心境のまま、ぼくは、ベッドで横になり、ベッドにある電灯を付けて、そのとき読んでいたマルクスの「経済学批判」を読み始めた。

 夜10時ころまで、本を読んでいたんだけど、その黒人男性が「寝るから、電気消してくれ」と冷たく言ったので、電気を消して寝ることにした。女性たちは、まだ帰ってきていなかった。

ある意味怖い話のまとめ
http://d.hatena.ne.jp/keigossa/20130331/1364694606