種の起源 第1章 飼育栽培のもとでの変異 1

種の起源要約 まとめ 目次

第1章 飼育栽培のもとでの変異

 古くから飼育栽培されてきた動植物の、同じ変種または亜変種(the same variety or sub-variety)の相違は一般的に、自然環境だけによるものより強い。これが、その人工的な生活条件の創作に因ることであることは明白である。そして、この変化は、終わりなく、また、多くの世代を重ねることにより顕著となる。

 この変化の発端は、どの段階にあるのか。私の見解によると、これは受胎作用より前にあると言える。生殖器は、自然状態などの外的要因に比較的さらされやすい場所にある。次に、健康な雄雌によって交接が行われても、生活状況によっては、子供が生まれる場合と生まれない場合がある。これらのことにより、変異の発端は、受胎前にあり、かつ生殖の成功率が下がる時に最も変異が生じる確率が高いと推測されるのである。

 不稔性(種や子ができにくいこと)は、園芸の衰退であるより、むしろ、種類が増えるという意味で繁栄の端緒である。

 植物の接ぎ木に見られる枝変わりの現象は、栽培下条件においてはさほど珍しいことではない。これは、発芽のときに芽がなんらかの発育条件の変化を受けたことと考えられる。また、この例が示すように、変異の全てが生殖作用と結合したものであるということは無い。

 しかしながら、生活条件が生物の変異に直接変化を及ぼす例はないというわけではないにしろ、それは、遺伝の法則、生殖、成長におけるものよりもはるかに重要性は低い。

 かと言って、生物の特徴を考える上で、それは無視できるものではない。というのも、花は気候条件によりその開花時期が変わるし、歩く機会の多いアヒルはその祖先であるカモよりもはるかに足の骨格が発達している。(飼育条件下で飛ぶ必要がなくなった)

 また、成長の相関correlation of growthというものがある。例えば、目の青い猫はほぼ例外なく聾であり、足の長い動物は頭部が伸長している。もしも、人が飼育下において、ある特徴を選択し続けるならば、神秘的な遺伝の法則に従って、その種の全く別の部分も成長させていくことになる。

 この変異の諸法則は、全く神秘的で、複雑で、それを知ることは困難なことであるが、それと同時に、感歎に値し、興味深い。(種の)全体性は可塑的plasticになり、先祖の形からわずかづつ離れていく傾向がある。(この段落からは、ダーウィンの並々ならぬ、生物の変化への興味と、また、その法則を例証から読み取ろうとする熱意と姿勢が特に読み取れる。)

 遺伝されない変異は、重要ではない。そして、遺伝の法則には、似たものが似たものを生むと言う法則がある。例えば、禿の血統に禿でない子が成長したら、むしろそのことの方が珍しい。(日本人に分かりやすい例えにした)また、百万件に一つくらいのごく稀な変異が親に起こり、それが子供に受け継がれるのなら、それは遺伝によるものとせざるを得ない。

 遺伝を支配する法則は全く知られていない。(ここで、現代では明らかになっている優性劣性の法則によるものと思われるもののことを語っている)だが、これよりも重要なことは、遺伝よって受け継がれた特質がその子に現れるのは、親にその特質が現れる時期とほぼ同一か、それよりも早いということである。

 種の先祖がえりというものが、事実として、しばしば観察されることは確かである。だがしかし、この先祖がえりを意識的に行うことはほぼ不可能である。一度変異した変種は、もとの飼育条件(自然)に戻したとしても、必ずしも先祖がえりしない。むしろ、これは、自然選択に大きく作用されるのである。

 飼育栽培品種と種との間に、形質的に顕著な差異は、認めることができる。しかし、それが、属(種のさらに上の分類)として分類できるかどうかは別問題であるし、私の見解によると、少なくとも飼育栽培品種において属の差異が現れることはまずない。

 飼育栽培品種の祖先は、単一の品種なのだろうか。例えば、私はイヌについては単一と思わない。逆に、祖先は単一であろうという確たる証拠のあるものもある。

 野蛮人は、果たして、飼育することで、変化があるということを予測して、それを行ったのだろうか。それともそうではないのだろうか。いずれにせよ、もしも、家畜化されていない野生種を、同じだけの時間飼育して繁殖させたのならば、その野生種は、現在のイヌのように、野生種とは大きく違ったものとなるだろう。

 古くから飼育栽培されてきた品種については、その祖先が単一かどうか、ということを知ることはほとんど不可能である。エジプトには、家畜の5000年の家畜の記録が残されているが、その前より家畜があったかどうかを知ることはできない。つまり、人類の歴史と、飼育栽培を関連付けても、ほとんどなにも分からないのである。(現在これはDNA解析で分かるのか?)

 この問題を明らかにすることはできないだろう。だが、イヌの祖先は、一つではないと、地理学的その他の考察に基づいて考えている。逆にウマの祖先は単一種であると思う。(その他、ダーウィンの意見が述べられている)

 現在の飼育栽培品種の多様性は、違った特徴を持つ原種同志の交雑をもって為されたという見解もあるが、これは、実験結果や現在の品種の状況からも考えられないことである。