土地と歴史

 ロシア、イギリス、フランス、アメリカ、ドイツ、スペインと歴史の勉強をしてきて、いろいろなことが分かってきた。

 私の考えにおいて、歴史とは、全て土地に由来している。というか、各国の歴史の相違を秩序つけることのできる違いはそれしかないからである。もちろんこれは、人間が全て等しいという大前提がある。つまり、人種差別という偏見も、神の加護という偏見も、選民とう偏見も、宗教の優劣という偏見も、聖人の有無と言う偏見も、とにかく全ての偏見を考慮に入れないならば、土地の違いだけが、歴史と国家構成の違いを秩序つけることができるのである。

 中世(1500年ころ)までで、栄えやすい土地柄の国は、例えば、イタリア(ローマに代表される)、ギリシア、スペインに代表されるような、山岳海洋国家、つまり、土地の変化に富んだ地域であったと思われる。これに対して、1500年以降では、フランス、イギリスに代表されるような、平野部の多い土地の豊かな地域と言える。これを考える上でのキーワードは、「文化交流速度と人的物的移動速度の関係」と、「食物供給量による人口増加率」、と言ったところか。

 例えば、イタリアは、ローマ帝国が栄えたけど、これが何故かと考えてみるに、やはり、その土木技術の高さではないかと思われる。そこで、何故土木技術が発達したのかと考えると、比較的狭い範囲に平野部と山岳部と海洋部があり、比較的に近いこの三つの部分をつなぐために、土木技術というものが発達し易いと考えられるのだ。あと、文化の交流としても、平野部と山岳部と海洋部というお互いに異質な文化が混ざりやすく、このために高度な新技術も生まれる可能性が高い。

 では、何故、このような土地的優位がありながら、それらの国(スペイン・イタリア諸国・ギリシア)は衰えたのか?それは、人的物的移動速度が速くなり出したからである。そうなってくると、内陸部に山岳が少なく、海洋に面しているような、イギリス・フランスが優位になってくる。なぜなら、山岳は技術の発展を促すという特質を持つ半面で、ある程度以上の移動速度が備わると、今度は逆に移動の障害物になるからだ。つまり、山岳があればあるほど、物や人の移動量は減り、その速度も落ちる。だから、移動速度増加の恩恵を受けることができるのは、それらの山岳国家では海洋から近い平野部のみとなるのだ。だが、フランス・イギリスのように平野の多い地域では、思いのままに、道路を建設することができる。全ての地域から、すべての地域にまんべんなく、人も物も高速移動させるような道路を簡単に建設できるのだ。スペインは、奇しくも、大航海国家として栄えたが故に衰えたとも言えることになる。どういうことかと言うと、スペインの山岳部で生産されたものは、大航海時代の前まで、スペインの平野までしか供給されなかった。それが、航海の革新によって、一気にフランスの内陸部までもたらされるようになったのだ。こういった、外洋からの文化や物の流入が、フランスやイギリス内陸部での、農業革命(三圃式農業から囲い込み農法への移行)を可能としたのではないかと思うのだ。

 もちろん、これらの考えの根底には、豊かさの概念がある。それは、結局人間を知的に富ますためには、ある程度以上の衣食住が必要という考え方だ。そして、何より、食物の安定供給は、人口を増加させる。そして、人口の増加は国家を強くする。別の言い方をすると、農業(食物)の安定が、人民の安定をもたらし、人民の安定が政治の安定をもたらす。これは儒家の王道政治の根幹ともいえる思想であろう。こうして考えてみるに、もはや食物の安定供給が実現された国家において、儒家の政治理論や王政は、「完全に」時代遅れなのかも知れない。