11.荀子 現代語訳 修身第二 四章

四章

 気を修めて心を養う術。

 血気が盛んで剛強(血気剛強)ならばこれを柔らげるために調和を用い、
 智慮が深くて細かい分野に陥ってしまう(智慮漸深)ならこれを一にするために易良を用い、
 勇気と胆力があって猛々しく意地っ張りである(勇胆猛戻)ならこれを補助するのに道順を用い、
 効率的に動き過ぎる(斉給便利)ならこれを節するために動止を用い、
 見たり感じたりする心の範囲が狭い(狭隘偏小)ならこれを広(廓)めるために広大を用い、
 卑屈で善に就くのが遅く貪欲(卑芤重遅貪利)であるのならこれに抗ずるために高志を用い、
 大衆の流行に流されやすく人に使われて自分が散る(庸衆駑散)ならこれを去って正しい道に止まるために師友を用い、
 怠けてばかりで何事にも軽薄(怠慢僄弃)であるならばこれを照(炤)らすために禍災を用い、
 融通が効かなくてバカ正直(愚款端愨)であるならばこれを合わせるために礼楽を用いる。

 おおよそ、気を治めて心を養う術と言うものは、礼に由ることより速いということはなく、師を得るよりも重要なことはなく、好むことを一にするよりも神(最上)なることはない。これらのことを気を治めて心を養う術という。(●凡そ気を治め心を養うの術は、礼によるより径なるはなく、師を得るより要なるはなく、好を一にするより神なるはなし。)


まとめ
http://d.hatena.ne.jp/keigossa/20130104/1357283885


解説及び感想

■ここでは、前章で修身の目安を明らかにしたことを継いで、修身に用いるべき道具とその道具の使い方、その道具を使う時と場合を明らかにしている。例えば、家を作る場合、前の章で述べたのが、柱や梁や窓枠の寸法であり、ここで述べたのは、柱を切る時はノコギリを使って、梁を整えるときはかんなを使って、窓枠を寸法通りに作るためには鉄工用具を使うということ。これらの使う道具を総じて礼という。礼に適っているとちょうどよい梁や柱や窓枠ができるということになる。最後の一文は、なんだかんだいっても、「良い家を作ろうという気持ち、家を作る専門家に従おうという気持ち、家を作るためには適切な道具を適切な場所で使おうという気持ち」が大事なことを述べている。

荀子の使った表現である漢字を用いて、この部分についてまとめ直してみる。順番は、1.対象(例えば柱なのか梁なのか窓枠なのか)2.どうするのか(例えば柱なら切る、梁なら削る、窓枠なら加工する)3.何を使うのか(例えば、柱を切るならのこぎり、梁を削るならかんな、窓枠を加工するなら鉄工用具)
1.血気剛強・柔・調和
2.智慮漸深・一・易良
3.勇胆猛戻・輔・道順
4.斉給便利・節・動止
5.狭隘偏小・廓・広大
6.卑芤重遅貪利・抗・高志
7.庸衆駑散・(去リ)・師友
8.怠慢僄弃・炤・禍災
9.愚款端愨・合・礼楽
▼これらの漢字の意味は敢えて明らかにしないでおこうと思う。というか、これらの意味が完全に分かるのなら、荀子の言う学問と修身と礼の半分以上を知っていることになる。完成した修身を作るための、時と場合、道具、とそれの使い方を知っているならば、修身は大方できることになるからだ。家で考えると分かりやすいと思う。そして、それができるということは、修身全てを知っているということになる。ところで、私の修身は完成からまだまだほど遠いところにある。

論語陽貨第十七より「子路よ、お前は六言の六弊を知っているか」「いえ、知りません」「では、そこにおれ、今からそれを説明しよう。仁を好んで学ぶことを好まないならば、その弊害は愚(情に流されて非を是としてしまう)である。知を好んで学ぶことを好まないならば、その弊害は蕩(無意味なことに深入りして迷うこと)である。信を好んで学を好まないならばその弊害は賊(知らず知らずのうちに良いことを傷つけてしまうこと)である。直を好んで学ぶことを好まないならば、その弊害は絞(率直に過ぎて厳しすぎること)である。勇を好んで学ぶことを好まないならば、その弊害は乱(目上の者に無意味に逆らうこと)である。剛を好んで学ぶことを好まないならば、その弊害は狂(かたくなに過ぎて人から全く理解できない領域に平然といること)である。

孫子九変篇第八より「故に将に五危あり。必死は殺され、必生は虜にされ、忿速は侮られ、廉潔は辱められ、愛民は煩わさる。おおよそこの五つの者は将の過ちなり、用兵の災なり。軍を覆し、将を殺すは必ず五危をもてす。察せざるべからざるなり」▼荀子との違いが面白いなと思った。荀子だと最後の「不可不察也」は「可不慎哉」である。内容的には、こうなったらこうなる、という因果と、こういった利点にはこういった悪弊があるという意味で、論調は荀子に似ているのだけど、この表現の違いは、荀子孫子の違いが端的に現れているようでとても興味深い。