社外取締役を読んで
- 作者: 大橋敬三
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2000/11
- メディア: 新書
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面白かった。
どういった点が面白かったかというと、特に具体例をあげているところである。明治時代の東京海上と日本郵船、アメリカの、フォード、クライスラー、GM、IBM、シカゴの2つの銀行、そして最もダメな例として三越、である。
これらの企業の沿線をたどることで、会社運営の執行(社長やCEOの役目)と、会社の運営それ自体(本来の取締役会)、会社の所有者の責任(株主の役目)の別次元性がわかってくる。これらを混同しているのがまさに日本の企業形態と言える。しかし、これらを混同したほうがいいのか、それとも混同しないほうがいいのか、ということは簡単に結論付けることはできない。(日本とアメリカの組織の違いについては本書の冒頭にわかりやすい図表が付いている、PDFにしてとっておくので、どうしてもという方は個人的にご連絡ください)
そういった意味でも、本書を通してわかることは、「完璧な経営システムなど存在しない」ということである。なぜなら、同じシステムを用いていても、企業運営がうまくいくこともあれば、失敗してしまうこともある。
つまり、そこで最も重要なファクターは、常に「人」である。ということである。二重三重の厳重な管理体制を敷いていても、そこに居る人が「権謀術数勢詐汚慢保身の人」であるならば、この厳重な管理体制は何の意味もなくなる。しかも、「清廉潔癖恭謙明察忠誠の人」というのは、滅多に居ないわけで、そう考えてみれば、どれだけ厳重な監査・管理・統治体制を敷いたとしても、人が判断を下す限りは、結局「完璧な経営システム」などは存在し得ないのである。
だから、結局、これらの企業の沿線から読み取れる一定不変のことは、2つある。1つ目は、この人間の欠点を補うために、どれだけリスク回避をしていくのか、ということである。また、2つ目は、「絶頂期があれば必ず衰える」「驕る平家は久しからず」などといった諸行無常のことである。
本書を通してよく分かることは、
1.株式会社の仕組み
2.アメリカの株式会社のこと
3.日本の株式会社の沿線
などである。経営にたずさわったことのない人、または、経営をしているけど経営とは何なのか研究したことがない人、アメリカ企業の内部事情を知りたい人、日本の株式会社の大勢を知らない人、には有効な情報源になると思う。
特に、3.日本の株式会社の沿線については、二章、戦中戦後の日本企業、に大変示唆的なことが多く書かれている。
以下抜粋
戦時中は政府が企業の内部事情に大きく干渉できた。そこで出された方針が「労働者への賃金と株主への配当を抑えて内部留保を高めよ」というものであった。
財閥解体が行われ、財閥の持ち株会社などの株式が処分されたことにより、一時は、個人の持株比率が70%になった。
その他各界の重鎮が追放され、若い世代がいきなり重要な地位につくことになったが、官僚組織はそのまま温存された。
ドッジ・ラインの効果、及び、企業再建整備法などにより復興目的の増資が行われることになり、株が大量に市場に出ることとなった。すると、株安が起こるため、個人の株所有者は株を手放してしまった。これにより、不当な買い占めや乗っ取り屋の専横が起こることを恐れた企業は、関連企業や取引先の銀行でお互いに株を持ち合うという方法を用いだした。これによってできたのが企業グループである。(これは予定調和を生むやり方である。予定調和と信頼関係は幻想の悠久なる平和を当事者たちに見せるのであるが、その実は経営の硬直化と、競争を減らすことによる怠慢を生む)
以上要約抜粋
アメリカ経済のことについても、興味深いことが書かれていた。つまり、日本が高度経済成長とその後のバブルに酔いしれていた1980〜1985ころ、レガーのミックスによって、アメリカでは徹底した対インフレ政策が行われていたのである。これがひとつ、日本のバブル後の低迷と、その後のアメリカの好況の違いの要因かもしれない。
ただし、古い本(リーマンショック前、2000年)なので、その点では注意が必要と思う。